Interview with Ann Harrison
2003 / 1 / 12
2003 / 5 / 1 翻訳版 DelphiマガジンVol.28 掲載
Written by Marina Novikova
on InterBase World (URL http://www.interbase-world.com/)
翻訳:林 務(株式会社アペックス)

 本インタビューは、InterBase WorldのWeb上でMarina Novikova氏によって公開されたものを、Marina氏とAnn Harrison氏の許可によって翻訳したものです。
 Ann Harrison氏はいわずと知れた、IBPhoenix社の社長です。InterBase / Firebirdの生みの親として、今も先頭にたって開発陣を引っ張っています。
 Marina Novikova氏はロシアの企業で英文翻訳とテクニカル・ライターをするかたわら、InterBase Worldの管理者をなさっています。Marina氏はInterBase Worldで、毎週のようにインタビューやレビューを更新されているのですが、このインタビューは、技術的なことやビジネスに関することだけでなく、各ゲストの人となりがよく現れていて、私はいつも楽しみにしています。
 会話の内容を損なうことなく、うまく語感をお伝えすることができれば幸いです。




Marina Novikova: ご趣味は何でしょう?

Ann Harrison: セーリング(訳注:ヨットの)ね。私と夫(訳注:Jim Starkey氏)は、36フィート(11メートル)のボートを持っているので、六月から十月までの週末はほとんどこれに時間を費やしているのよ。

Marina Novikova: どんな音楽がお好きですか?

Ann Harrison: アシッド・ロックとロックの影響を強く受けているブルースね。

Marina Novikova: お好きな本(作家)はどんなものですか?

Ann Harrison: アンソニー・ポール("Dance to the Music of Time")、ジョセフ・コンラッド("Lord Jim") ゴア・ビダル(歴史物フィクション)、パトリック・オブライエン(どれもいいわね)。

Marina Novikova: 今までにもらったプレゼントで、一番変わったものだったなと思うのはどんなものですか?

Ann Harrison: 私の姉が以前に一度、乾燥して扁平なヒキガエルを送ってきたことがあったわね。彼女が言うには、私に見立てて送ったわけじゃないそうだけど、本当かしら。

Marina Novikova: これまでで、もっともエキサイティングな時というのはどんな時でした?

Ann Harrison: 恋に落ちるっていうのは天にも昇る気持ちになるものよ。でも、そんなにしょっちゅうすべき事ではないわね。

Marina Novikova: どんなことをするのがお嫌いですか?

Ann Harrison: お金のことを聞いて回る事ね。

Marina Novikova: イライラしたりするのは、周りの人がどんなことをしたときですか?

Ann Harrison: アホらしくて中身のないおしゃべりね。

Marina Novikova: 自由に使える時間をどう過ごしていますか?

Ann Harrison: 自由に使える時間って?(訳注:そんなのあるの? って感じでしょうかね)

Marina Novikova: 大きな夢はありますか?

Ann Harrison: オープン・ソースのデータベースがOracleを打倒する事ね。

Marina Novikova: ジャーナリストがいつも質問すると思いますが、もっとも多い質問はなんでしょう?

Ann Harrison: どのようにしてInterbase/Firebirdに関わるようになったのですか? かな。

Marina Novikova: 学歴をお聞きしても良いですか?

Ann Harrison: 比較文学の学士号を大学で取りましたよ。さあどうぞ、19世紀後半のフランスの詩が20世紀初頭のアメリカの詩にどんな影響を与えたのか聞いてご覧なさい。

Marina Novikova: プログラミングに最初に興味を持ったのはいつの頃のことですか?

Ann Harrison: 興味を持った? そんなことはなかったと思うわね。私は職業についただけなのよ、DECがPDP-11向けに売っていたCOBOLのコンパイラーが出してくるバグレポートの点検から始まったのよ。それから、まあまあデータベースに夢中になったんだけど、プログラミングの技巧に燃えたことはなかったわ。

Marina Novikova: 一番最初に書いたプログラムはどんなものでした?

Ann Harrison: 実際のところ、まだ書いたことがないのよ。つまらないちょっとしたテストプログラムやロードプログラムを除いてね。私の専門は、ずっとバグを見つけて修正することなの。通常、バグを直すということは、問題のあるコードをいくつか除いて、それをよりましだと考えられるより少ない数行と置き換えるということになるわね。そう考えると、私の仕事っていうのはプログラムを削ることなのかもしれないわね。

Marina Novikova: Firebirdの開発を継続すること(新バージョンや新機能の追加、その他)と、IBPhoenixの顧客に対してコンサルティングとサポートを行うこと(私の考えでは、IBPhoenixはInterBaseの顧客をもサポートしたいと思っている)のどちらがより重要な仕事だとお考えですか? ご意見を伺いたいのですが。

Ann Harrison: 私たちは、コンサルティングとサポートのビジネスをFirebirdを開発する上での収益源として行っているの。実際のところ、私たちはドキュメントやビルド用キット、テストキットなどの、重要な製品が満足に出ていないので、それを何とかしようとしているところよ。

Marina Novikova: 一貫したサポートが提供されない(製品の開発が続けられることを誰も保証してくれない)ということで、オープン・ソースプロジェクトに否定的な態度を取る人もいます。

Ann Harrison: そういった人々は経験がないのね。商用の製品はいつでも「見捨てられて」きたわ。ソースコードが利用可能で、世界中の開発者がその上で経験を積んでいるということは、けっしてその製品が死ぬことはないというのが事実でしょう。

Marina Novikova: それから、管理者の中には、オープン・ソースだとハッカーがソースコードを分析することができるから、サーバー中のセキュリティ・ホールを発見されてしまい、セキュリティ上無力だと考えている人たちもいるようですが。

Ann Harrison: セキュリティの専門家たちはみんな言ってくるけど、秘匿することはセキュリティではないのよ。システムをセキュアに保つためには、多くの人の目にそれをさらして、全ての問題を見つけては直すということしかできないのね。私たちがやっているようにね。

Marina Novikova: Fireibrdの開発をしている中で、もっとも困難な問題に直面したのはどんな時でしたか?

Ann Harrison: 一番最初ね。私たちは、経験を積んだ開発者のいる会社を持てるということと収益が確保できるということを期待していたのよ。でも、ボーランドが手を引いてしまって、開発陣を引き上げて、収益もなくなって、製品名も取り上げられてしまったわ。幸運にも、Mark O'Donohueとその他にも何人かソースコードに手を入れたいと思ってくれて、それでFirebirdを立ち上げることができたのよ。

Marina Novikova: ボーランドとIBPhoenixについての話ですが、より楽しかったのはどちらでしょうか?

Ann Harrison: 私はボーランドのために働いたことはないわ。私はもともとのInterBaseソフトウェアカンパニーにいて、とてもいい仲間たちと働いていただけ。一方で、いまFirebirdの開発をすすめている開発陣は、私がずっと仕事を一緒にしてきた、二人の双肩にとりわけかかっているのだけど、そのうち一人は私の夫よ。

Marina Novikova: どこにいると落ち着きますか? また、それはどうしてですか?

Ann Harrison: IBPhoenixね。私はInterBaseソフトウェアの社長になったのだから、自分だけの将来だけに関心を持つのではなくて、六十人の従業員全ての将来に関心を持たなくてはならなかったわ。いつも何らかの危機があって、エアコンの吹き出し口から毒ガスが吹き出したり(もちろん、毒ではなかったかもしれないけどね。それにガスでもなかったかも。でも、本当にすごいニオイだったのよ)、ある従業員が別の従業員にFedExの三日後配送で八月に魚の頭を送ったのよ、くさい話ね、それから銀行や、顧客や、営業部隊のこと・・・。

Marina Novikova: 私の知っている限りでは、Firebird 基金は全ての開発者に補助金を与えているわけではないですね。アクティブに活動していても補助金を得られないという人が不満を感じていると思いませんか?

Ann Harrison: Firebird 基金は資金援助を得るのは誰かを決定するための委員会を持っているわね。彼らは、よりクリティカルな部分や、主要な部分で作業をしている人たちより日の当たらない部分で作業をしている人たちに補助金を与える傾向があるようね。IBPhoenixはどんな開発者もサポートしていないのよ。ドキュメンテーションとテスト、ビルドキット、その他のつまらない部分だけ手がけているの。ほとんどの開発者は、そのことを理解して一緒にやってくれていると思っているわ。

Marina Novikova: Linux Todayのインタビューの中で、FirebirdチームはInterBaseの以前のバージョンとの交換性をサポートするつもりだと発言されました。他方で、ボーランドの追加した機能(例えばInterBase7でのgds32.dllの内部的な変更とか)はサポートするのが難しいと思います。これについてはどうしようと思っていますか?

Ann Harrison: 迷惑なことだけど、驚くようなことではないわね。ボーランドは、すばらしい技術者のより多くの仕事によって、アドバンテージを得る機会があったのよ。InterBaseとFirebirdが共同作業をすることができていたとしたら、ボーランドはより多くの開発ツールを売ることができたでしょうし、データベースビジネスの堅実な(そして収益の上がる)部分を保ち続けることができたでしょうね。そうなっていれば、技術的にも資金的にも得るものがあったと思うわ。でも、彼らは状況を見ずに、秘密主義の開発ポリシーを続けているのよ。

Marina Novikova: Yaffilやその他の同様のプロジェクト(実際のところに商用のものもあるわけですが)についてはどう考えていますか? それらが、あなたの労働を利用してお金を得ていることは倫理的に問題だと思いますか?

Ann Harrison: 第一に、それは私の労働というわけではないわね。第二に、IPLの元での開発では、私はIBSurgeonのような、その一部としてデータベースエンジンを埋め込んでいる商用製品を許可するのに大変注意を払ってきたわ。第三に、私の目標とするゴールは、人々のデータベース・マネジメントに対する考え方を変えること、それはとても高いコストがかかることではないし、どんなソフトウェア・エンジニアリング・プロジェクトでも基盤となるべきものだということを知ってもらうということなの。そして、それに沿って考えると、OracleとSQL Serverをぶっつぶすことだといえるわね。それから、私は自分がオープンソースソフトウェアをとても好きになってしまったことに気づいたのよ。私のこれまでの20年間のキャリアの中で、競合するデータベース・システムに関わっている人たちとは誰とも大っぴらに話ができなかったの。この種の分断は技術の進歩をひどく制限するわ。IPLは、独占的コードとInterBase/Firebirdのコード間のインターフェースについて公開することを求めているわね、その結果として開発している組織の外に配布されることになったとしてもね。Yaffilの開発陣は彼らの製品を変更する完全な権利を保持しているけど、それは彼らのインターフェースを公開する限りにおいてね。個人的には、彼らはコードを全て公開しないことによって本当の機会を失っている、と思うわ。同じメッセージの全てに対してバグレポートやパッチをもらうことができないのですからね。


訳注:Yaffilはロシアを中心にして開発されている、さらにもう一つのInterBaseです。Ann氏の発言からすると、半クローズドな開発体制を取っているようです。「ようです」というのはサイトがロシア語なので筆者の手には負えません。URLを以下に示します。http://yaffil.ibase.ru/